ガイドブック

「ガイドブック」というのは、もちろん旅行の案内書のことです。ガイドブックは、目的地の観光に関するさまざまな情報を旅行者のために紹介するものです。その多くは目的地別に編纂され、大きさも持ち運びに便利な小型版がほとんどです。

 

ガイドブックは、国や地方、都市などの観光地に関する歴史・文化・生活習慣などをはじめとする社会的背景から、交通アクセス・宿泊施設・ショッピング・グルメ・観光施設・イベントなど多方面にわたっています。

 

現在のような形の旅行案内書が発行されたのは、19世紀のはじめヨーロッパにおいてであったといわれています。日本でも2007年12月に、フランスのタイヤメーカー、ミシュラン社が発行する「ミシュランガイド東京2008」が発売され、食のガイドブックとして大きな話題となりましたが、これはもともとミシュランの創業者、エドワール・ミシュランとアンドレ・ミシュランが、1900年にフランスで創刊したのが始まりです。

 

しかし、この「ミシュランガイド」の始まりは、ドライバー向けの実用ガイドブックとして、自動車の点検・修理工場や居心地のよいホテル、おすすめのレストランなどを紹介する目的ではじめられたものです。

 

「ミシュランガイド」で「星」によるレストランの格付けが始まったのは、1925年のことです。以来、信頼性と上質性の指標として「ミシュランガイド」は、ヨーロッパでは不動の地位を確立しました。さらに、2005年にアメリカに進出し、日本では2008年版から、出版されることになったわけです。

 

その他、イギリスの「ブルー・ガイド」シリーズ、フランスの「ギド・ブルー」シリーズ、アメリカの「フォダー」シリーズなどが、ガイドブックとして国際的に知られています。

 

日本でも江戸時代後期ころから、「名所図会(めいしょずえ)」をはじめとするさまざまな旅行案内書が盛んに発行されるようになりました。「名所図会」は、実際の写生による挿絵に重きをおき、視覚的に楽しませたことから庶民にも好評を博しました。伊勢参りなど、宗教的な聖地を旅の目的地とする案内書も多くつくられました。

 

有名な十返舎一九の「東海道中膝栗毛」は、伊勢参りなどのために東海道を旅する人々の滑稽な生態を描いた滑稽本ですが、同時にまた実践的な旅行案内書でもあるというたいへん凝った作品でした。

 

考えてみれば、庶民が旅を日常的に楽しむ風潮が現れるのは、その社会にある程度の知的水準が涵養されていなければならないといえるでしょう。ヨーロッパで19世紀のはじめに近代的な旅行案内書シリーズが発刊されるより以前に、日本では、すでにそういう書物が数多く庶民向けに刊行されていたということは、鎖国していたとはいえ当時の日本の知的文化水準の高さをあらためて再発見すべきものでしょう。

 

日本の近代的な旅行案内書は明治期に入り、鉄道とともに進歩したといえるでしょう。日本で最初の近代的な旅行ガイドブックは、主要な鉄道が国有化されるにともない、旅行案内書の出版も鉄道院・鉄道省など行政主導ですすめられたものでした。

 

1911年(明治44年)、鉄道院が「鉄道院線沿道遊覧地案内」(その後「鉄道旅行案内」に改訂)を刊行しました。また1929年(昭和4年)頃より、鉄道省が編集した「日本案内記」が刊行されました。これによって、日本のほとんどの名所・旧跡が紹介され、これが現在の日本国内の旅行案内書の原型となったといわれています。

 

1949年(昭和24年)に日本交通公社から、「日本案内記」をモデルに「新旅行案内」が、つづいて「最新旅行案内」が刊行されました。1973年(昭和48年)に「新日本ガイド」が出版され、当時日本全国すべての市町村を紹介し、ガイドブックとしても貴重な地理資料としても評価を高めました。これがその後、「エースガイド」へと続きました。

 

1961年(昭和36年)実業之日本社が「ブルーガイド」を刊行。このシリーズは登山やハイキングだけでなく、個人旅行をターゲットにした編集方針で人気を博しました。1960年代以降、他の出版社からも旅行ガイドブックが競って出版されるようになり、その種類と数は飛躍的に増え、現在もその趨勢は変わりません。